さとこ虫ブログ

イラスト制作を中心に活動する、さとこ虫ワールドを綴っていきます。

2023年カード解説「空」

2023年版の紋章カードの解説です。

今回は趣向を変えて、物語をつづっていきます。

どこかの誰かの、カードが伝えてくれる物語です。

 

「空」

 



走っている

林の中を走り続けている

 

帯もほどけて、何度も結び直し。
何日、この林を走り回っているだろう。
村人はどこに行ったのだろう。
結局、俺は誰も助けられない。

どこまで行けばいいんだ。

もう、草履も擦り切れて。


・・また、あの夢。

野武士のような私が走り続ける夢。
焦燥感。無念。無力感。
目が覚めた時にのこる、そんな感情。

仕事が立て込んだり、面倒な案件があると

よく見ている記憶がある。余計に落ち込む。

 

今の時代、なんで野武士?

 

 

・・・いろいろあって、私はあの野武士と対峙することにした。
どうやってかって?

夢の中で会いに行くと決めて眠るしかない。

 

野武士はまだ、林の中にいた。走ってなくて倒木にうつむいて座り込んでいた。

自分である野武士に話しかけるんだから、変な感じだ。

「あの、いつもどうして走ってるんですか?」

野武士は驚いたのは一瞬で、こちらが驚くほど素直に答えた。

「みんなを、助けるためです」

私、「みんなって?」

「村の者が ほかの藩から攻められる前に逃がさなければ」

私、「もう大丈夫ですよ、村の方たちは安全なところに案内しましょう」

 

夢の中だから、多少の飛躍はできる。

とにかくこの人を安心させたい。

夢の中の自分だから、どれほど寂しく一人でいたのかがわかる。

そして今の自分に残っている感情にも気づいた。

彼が持っているその思いは「自分は 無力だ」だった。

 

ずっと、無力さと無念さを秘めて、「私ではだめだ」と生きてきた気がする。
だから人の役に立ちたいし、助けることでこの思いを成就したい。

 

林のなかの二人に、空から光が差した。

薄暗いなか、スポットライトのように私たちを照らす。

もう、この思いに縛られる必要はないんだ。

打ちひしがれている野武士の私に声をかけた。

「あなたはたくさんの方から好かれていましたよ。大事な人でしたよ」

野武士はその場で、叫ぶように泣いた。

 

私たち二人は、「私ではだめだ」のくさびを外した。

そして子どものように、なんのとらわれもない「空」へ心を飛ばした。


追記
誰かのために、という思いも、自分の果たせなかったと思ってきた体験からきているのかもしれません。日常的にこの原因を突き止めるのはなかなか手ごわいようです。
ただ必要以上に自身が無理をしてしまっているとき、なんの制限もない「空」に心を置いてみることで、自分の姿を見出すことができればと思います。