さとこ虫ブログ

イラスト制作を中心に活動する、さとこ虫ワールドを綴っていきます。

2023年カード解説「見えないもの」

2023年版の紋章カードの解説です。

今回は趣向を変えて、物語をつづっていきます。

どこかの誰かの、カードが伝えてくれる物語です。

これだけの雪だと、ホワイトクリスマスより、大渋滞がニュースになる。
子どもたちも奥さんも、僕が帰り着いたころには、チキンを食べた後だった。
ホームパーティの残り物の、なんとさびしいディナー。


小五の息子はサンタを完全に疑っている。
「お父さんたちが用意するんだよね」なんて確かめるように聞いてくる。
僕は、絶対にサンタの潔白を晴らしたいと思っている。

サンタを信じる僕にとっては、今日はミッション決行の夜だった。
小学校3年の寒いクリスマスの夜だった。やはり僕も、本当にサンタが来るのかと12時を過ぎてもベッドの中で眠れずにいた。やっと、うとうとし始めたころ、カーテンの向こうが緑色のフラッシュのように光った。そして部屋には白く光るおじいさんが立っていた。
そのあとのことは、なぜか思い出せない。
夢だったのかと思うのだけど、次の朝には、(たぶん)両親が選んだであろうレンジャー物の武器セットの下に、見たこともないような虹色の石がネルの袋に包まれて置かれていた。

その思い出の頃からか、それから僕は不思議な世界を体験することが多くなった。
そのたびに、引き出しに隠していた虹色の石を握っては、心を落ち着かせるんだった。
あの時、サンタのようなおじさんがずっと見守ってくれているように思えた。

今、出版社に勤めているのも、そのころからの見えないもの(僕の場合見えたわけだけど)に対する畏敬が残っていたからだと思う。

特に絵本を読む子どもたちの、絵本の中で旅するイマジネーションは最も大切にしたいことの一つだと思う。そんな分野の仕事に関われているのは、ありがたいことだと思う。

おっと、そうそうミッションだった。
息子はぐっすり眠っただろうか。なにも、サンタ降臨の儀式をするわけではない。
「信じなくなったら消えるんだよ」そんなメッセージを伝えたいだけなんだ。
世の中には見えないからこそ、いいようにしてしまうきらいも確かにある。だけど見えないから証拠がない、意味がないだけではないんだ。見えないからこそ、注意深く感覚で観察するんだ。僕はそうやって人には伝えきれない事を自分の中で育ててきた。
どんどん世の中の流れに乗っていく息子に、そろそろそんな世界を受け止めてくれたらと思ってきた。だから今夜はいい機会だ。

あの夜のように、雪が降っている。車の音もしない静寂の夜だ。
僕はそっと、彼が疑わしく置いた 小さなツリーの下の靴下の中に、ネルの包みを入れた。そして真実を伝える証拠として、彼のリクエストのプレゼントをその靴下の上に置いた。



追記:サンタは霊感商法ではありません。甘い誘惑もしません。街でリアルなサンタに声をかけられても、見破ってください。