2023年カード解説「故郷」
九州、福岡でも雪がちらつく日曜日です。
日本中が冬至前、寒気の中にいるようですね。
2023年版の紋章カードの解説です。
趣向を変えて物語にしていきます。
どこかの誰かの、カードが伝えてくれる物語です。
「故郷」
若いころは 晩秋の頃が嫌だった。
少し田舎のほうに住んでいるから、柿の木が葉を落として あの橙色の実だけ残っているのや、山もだんだん鮮やかな色が薄れて トーンの低い灰褐色になっていく感じ。秋の祭りも終わって、ただ寒くなる支度に向かっている感じが、何とも寂しく感じて嫌だった。
だけども、自身の人生の夏を超え、秋の収穫時期を迎え(といっても何を収穫したかはわからないけど)確実に人生の晩秋に差し掛かったころ、この季節をしみじみ味わっている自分だった。
そうして、なんだか懐かしい思い出が浮かんでくるのだった。
おばあちゃんは、いつも優しかった。母とけんかして祖母の家に逃げ込んだ時も、詳しく話を聞かなくても、うんうん うなずいて私の好きなおやつを出してきて、一緒に食べようと言ってくれた。
お正月に泊まった夜は、おばあちゃんと布団を並べて寝た。湿り気のある綿の布団は 昭和の柄が派手で、質素な古い家に妙なコントラスト。何度も寒くないね?と心配してくれたっけ。
温かさ、ゆっくりさ、なつかしさ、安心。
そんな思い出を持っていることを、改めて幸運だったと思う。
ふと、ああ、私も誰かの「故郷」になりたいと思った。私は子どもがいないが、身内でなくてもいい。無条件に温かく包んでくれる何か。
きっとそれは、場所でもない、将来でもない。私の中にあるのだ。
私の故郷は、私の中に。ようこそ 故郷へ。